冷え性は体の血流が悪いから、は大間違い!

 テレビや雑誌で話題にされている、女性が気に掛けている症状の中で、肥満ダイエットに次いで多いのが、冷え性のようです。私も、テレビ等で専門家の先生方が冷え性の事を説明指導なさっているのを時々見ていますが、多くの先生が医学的に間違った説明をしているのには驚きを禁じ得ません。

 冷えは、手足の血流が悪い事が原因と説明していますし、冷えを治すには手足を温めたり、温めのお湯で半身浴を長めにやると良いとか、手足のツボを押せば良くなる等の指導が多いようです。しかし、このような指導で本当に冷え性が良くなっている人は、いるのでしょうか。私は良くなっている人は、あまりいないのではないかと思っています。何故ならば、医学的には、冷え症は体がどれだけ熱を産生しているかの代謝の問題であり、血流の問題ではないからです。

 

 体の中で血流の役割は、細胞組織に栄養と酸素を運ぶことですが、体熱に関しては、熱を放出させて体を冷やす事が役割です。車で言えばエンジンの熱を冷却するラジエーターの役割であり、決して体を温める役割では無いのです。

 

 体の中では、脳、心臓、肝臓、腎臓、肺、胃腸等の重要臓器と筋肉が、生命を維持する為に活発に働き、化学反応による代謝熱をどんどん作り続けています。心臓の温度は41度、肝臓はこれ以上の温度になっています。この代謝熱を何とかして体外に放出して、体の中心部体温を下げないと、体温は上がり続け、43度を超えますと脳の神経は機能を失い、やがては個体の死を来してしまいます。

 

 人間の体にとって、体温を一定に維持すると言う事は、体調の維持に最も大切な事で、僅か1度上がっても下がっても、体調が悪くなった事を自覚できます。体温がもし3度上がったならば、ほとんどの人は起きているのが辛い程で、相当の重症感を感じている筈です。

 

 一般的に、化学反応に於ける反応速度にとって、温度は大きな要素です。上がれば化学反応は活発化し、下がれば化学反応は低下します。ただし、人間の細胞の中での化学反応は、数万種類はあると思われる酵素タンパク質による反応です。酵素タンパク質による反応の場合、至適温度と言うものが有り、温度が低ければ反応が不活発になります。しかし、温度が高くなった場合には、ある温度を超えますと、酵素タンパク質自体が熱で壊れて死活化してしまいます。その為に、人間の体温は常時中心部で平均37度になるように調整されています。

 

 血流は、この中心部体温を37度に一定に保つために大切な働きをしています。

 

体温調節の仕組み

 

 体の体温調節の仕組みを簡単に説明しますと、安静時、体熱の約三分の二は、体重の十分の一程の脳と内臓で作られています。筋肉は運動に応じて体熱の産生を増やし、最大運動時には、10倍も体熱の産生を増やす事が出来ます。これらの組織で作られた熱は常時排泄されなければ、体温が上昇し続けて、やがて体調が悪くなり生命にも危険が及ぶことになりますから、何とか速やかに体の外に逃がしてやらなければなりません。

 

 その体熱を下げるための一番の仕組みが血液の循環です。血液は脳や内臓で産生された熱を運び去り、皮膚表面の温度調整の為の血管を拡張させて血管から熱を放出させ、血液を冷やし、冷えた血液を体の中心部に戻して、脳や内臓が37度を保つように冷却しています。

 

 この様に、体を冷やそうとして、皮膚の温度調整の為の血管が拡張し、体から熱を放出している時が、一般的に言われる手足が温かいと言う状態です。

 

 それに対して、冷え性で手足が冷たい状態とは、体の代謝が悪いか、外気温が低い為に体の中心部体温が37度を下回りそうになった時に、皮膚の温度調整の為の血管を閉じて、皮膚からの熱の放出を出来るだけ抑えた状態のことを指します。この時、手足は冷えている状態となります。

 

 温度調整の為の血管とはどの様な物かと言いますと、手や足には筋肉が有りますが、筋肉の血流は温度に関係なく一定程度流れています。ですから、冷え性の人でも、一般的な冷え性の人では、筋肉の血流が悪くて筋肉が委縮したり、筋肉が冷える事は有りません。実際に筋肉が冷えてしまう様な異常事態では、手足の筋肉がマヒして動かせない状態になります。

 

 皮膚の血管も、皮膚を栄養している血流は、温度に関係なく、一定程度流れていますから、冷え性の人で特に皮膚が、ガサガサになったと言う人はいません。皮膚の温度調整の為の血管とは特殊なものです。通常の血管は組織に栄養を運ぶ事が役割ですから、皮膚を栄養している血管の場合も、動脈が枝分かれを繰り返して最後に毛細血管となり、その毛細血管の部分でのみ、皮膚の細胞と血管との間で酸素と栄養のやり取りが出来て、その後、静脈となって心臓へ戻って行くように出来ています。

 

 温度調整の為の血管は、毛細血管の手前の少し太めの動脈から静脈へ直接繋がっている、動静脈吻合血管と呼ばれるもので、皮膚の栄養には関与しない血管です、この血管は体熱を放散する時には、拡張して体内の温かい血液を皮膚表面にどんどん循環させて、血液を外気で冷やしていきます。

 

 しかし、体の中心部体温を、冷えないように維持しなければならない時には、この動静脈吻合血管が閉じて、温かい血液が出来るだけ皮膚を流れないように調整されます。これによって体は低体温になる事を防いでいます。

 

 また、人は眠くなると手足がぽかぽか温まって来ますが、これは、体を冷やす為の行為で、体が眠りにつく為には、中心部体温を下げて代謝活動を低下させる必要が有るからです。

 

 ここまでの説明で、血液の循環は体を温めるのではなく、冷やす為の物である事が御理解頂けたのでは無いかと思います。

 

 結局、冷え性とは、体の血液の循環が悪いからでは無く、体の代謝が悪い為に、体で熱の産生が低下している事が根本原因なのです。もしも、体の代謝が悪く熱の産生が弱いのに、手足の血管が拡張して血流が良くなりますと、体熱がどんどん失われて低体温になって体調を悪くしてしまいます。

 

冷え性を治すとは?

 

 それでは、冷え性を治すにはどの様にしたら良いかと言いますと、体の代謝を高めて体熱の産生を増やす事です。

 

 一般的に冷え性が問題になるのは、寒い冬の季節です。冬になると、体は、中心部体温を下げないように、皮膚からの熱の放散を防ぐため、皮膚の温度調整の為の血管を閉じます。この時、皮膚は冷たくなりますが、体内は皮膚が冷たい分だけ放熱が防げますので、皮下脂肪の断熱効果と相まって、体の内部は温かさを保つ事が出来ます。しかし、外気温がさらに低い場合には、体熱の放出を完全に防げる訳では有りませんので、37度の中心部体温を維持する為には、代謝を高めて体熱の産生を増やす事になります。この代謝を、寒さに順応させて高める事が出来ない状態を、冷え性と言うのだと思います。

 

 通常、人が寒さに晒された場合、まず交感神経が反応し、皮膚血管の収縮と褐色脂肪細胞(交感神経で活性化される熱を作る専門の細胞)の活性化、脳、心臓等、内臓系の代謝を活性化させて、熱の産生を高め、体を温めようとしますが、それでも追い付かない時には、体の震えを起こして筋肉の熱産生を最大10倍高めて寒さに対抗しようとします。しかし、この状態は体の緊急時の対応であり長時間持続は出来ません。その為に、体が次に行う対応策が、甲状腺ホルモンの分泌を高めて、体の代謝を交感神経に依らずに常時高める事です。

 

 また、最近の研究では、筋肉が寒さに順応すると筋細胞内にサルコリピンというタンパク質が増加して筋運動とは関連しない筋肉の産熱を増やすことが解って来ました。さらに、寒さに晒された筋肉では、イリシンと言うタンパク質が作られて、細胞外に分泌されて脂肪細胞に作用し、白色脂肪細胞を寒さに対抗して熱を産生する褐色脂肪細胞化させる事も分かって来ました。

 

 この寒さに対する適応力の順応は、寒さに晒されてから二週間程で起きて来ます。寒さに順応した後は、交感神経や甲状腺ホルモンの分泌は、通常の状態に戻りますが、筋肉はサルコリピンやイリシン等のタンパク質を作る等して、体の細胞の代謝は、この間に変化してホルモンが通常の状態でも、常時代謝が高く熱の産生が強い状態を維持出来る様になります。この寒さに対する順応が出来た人は冷え性にはなりません。現代に生きる人に、冷え性を訴える人が多いのは、この寒さ順応が出来て居ない人が多い事に他なりません。

 

 ペットの犬で例えれば、家犬と外犬の違いです。いつも外で飼っている犬の場合には、夏の暑さにも冬の寒さにも晒されますから、体温調節機能が高く、真冬で寒風吹きすさぶ中でも元気に飛び回って居ますが、家の中で飼っている犬の場合には、夏に暑ければクーラーで冷やし、寒い冬には暖房で温めてあげますから、冬の寒さにも順応が出来ないものが多く、冬の寒い日に外に出すとがたがた震えたり、すぐに家に戻りたがったりします。

 

 人の冷え性も、家犬と同じ事が言えます。人の場合も寒いからと言って暖房の効いた家の中でばかり過ごして運動不足にもなり、外に出る時には、防寒着をしっかり身にまとい、寒気に触れないようにばかり生活していては、いつまでも寒さ順応が起きないため、体の代謝も高まらず冷え性の改善は出来ません。

 

 体の代謝を高めて、冷え性の改善をするためには、端的に言えば、外犬の様な生活をすれば良いと言う事になります。寒いからと言って、暖かい家の中でばかり生活するのではなく、積極的に寒い外に出て、活動的に暮らす事です、寒さに晒さずに代謝を高める事は出来ません。一時的に高める事は、唐辛子のカプサイシンを食べたり、運動したりで出来ますが、これはあくまで一時的なもので、その場限りの物です。

 

 恒常的に代謝を上げるためには、体が寒さ順応するしかありません。寒さ順応は、寒さに晒され続けているうちに、人にも依りますが、二週間ほどで起きてくる反応です。最初は交感神経の活性化と、その次に甲状腺ホルモンの分泌の増加で、細胞内の代謝による熱産生を、常時高いレベルに維持する様に、質的変化を起こさせるものです。

 

 日本と朝鮮半島の素潜り海女の研究では1960年代の初め頃までは、海女達は素肌に木綿の薄い肌着程度の物を着て海に潜っていましたが、冬の冷たい海に潜っている時期には、基礎代謝が30%も上がっていた事が分っています。

 

 寒さに晒すとは言っても、元々虚弱体質で、順応力の弱い人は、体が寒さに順応する前に風邪を引いたり、病気になってしまう可能性もあります。ですので、寒さに晒す際には、薄着でジョギングする等、運動もセットで行い、筋肉による熱産生の力を十分活用しながら寒さ順応して行く必要があります。

 

 食べ物については、書面の都合で割愛させて頂きますが、寒さに順応する為には体を温める燃料であるカロリーを十分に摂る必要が有ります。この場合、同じカロリーでも、デンプン糖質よりも、脂質の方が熱産生が多い事が分っています。

 

 当院の治療で冷え性が改善されているのは、生命科学に基づいた指導と治療による体質改善により代謝が活発化した事によると言えます。

 



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